大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(ワ)13429号 判決 1969年10月22日

原告 フェデトロ・インコーポレーテッド

右代表者 ロバート・デー・カーン

右訴訟代理人弁護士 菅谷瑞人

右輔佐人弁理士 井上重三

被告 オータ電機株式会社

右代表者代表取締役 太田正男

右訴訟代理人弁護士 宍道進

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一、原告 左記判決および仮執行の宣言を求める。

(一)  被告は、業として、別紙第二図面に表示する意匠を有する電線接続器を製造し、使用し、譲渡し、貸渡し、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。

(二)  被告は別紙第一ないし第七写真に表示する「型」を廃棄せよ。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告 主文と同旨の判決を求める。

第二原告の請求原因

一  原告の権利

原告は左記意匠権を有する。

出願―昭和三八年一一月三〇日

登録―昭和三九年八月三日

登録番号―第二三九、五四三号

意匠にかかる物品―コンセントタップ

構成―別紙第一図面記載のとおり

二  被告は、現在、業として別紙第一ないし第七写真に表示する「型」(以下、本件「型」という)を使用して、別紙第二図面に表示する意匠を有する電線接続器(以下、本件被告製品という)を製造し、これを販売している。

三  本件登録意匠の構成

原告の本件登録意匠の構成は次のとおりである。

(一)  基盤の正面輪郭が正方形であること。

(二)  基盤の正面部に、二個の臼歯状の窪みを以て一組とするプラグ差込孔が、上下二段に、三組づつ、計六組設けられていること。

(三)  右各組の差込孔は、いずれも、基盤(筐体面)より上方に突出していること。

(四)  基盤の正面中央部に止めビス孔が設けられていること。

(五)  基盤の背面に四本のプラグを突出させ、背面中央部に止めビス孔が設けられていること。

四  被告意匠の構成

ところで、本件被告製品の意匠は、次のような構成である。

(一)' 基盤の正面輪郭が、横幅より縦幅が約一〇分の二長い長方形であること。

(二)' 基盤の正面部に、二個の臼歯状の窪みを以て一組とするプラグ差込孔が、左右二列に、三組づつ、計六組設けられていること。

(三)' 右各組の差込孔は、いずれも、基盤(筐体面)より上方に突出し、該突出部の外周基部には、幅・高さとも約一ミリの形の段部が設けられていること。

(四)' 基盤の正面中央部に止めビス孔が設けられていること。

(五)' 基盤の背面に四本のプラグを突出させ、背面中央部に止めビス孔が設けられていること。

五  本件登録意匠と被告意匠の類否

そこで、本件登録意匠(以下、という)と被告意匠(以下、という)とを対比すると、両者は、その構成において、左記各点は同一であるが、

(イ)  基盤の正面部に、二個の臼歯状の窪みを以て一組とするプラグ差込孔が計六組設けられていること。

(ロ)  右各差込孔は、いずれも基盤(筐体面)より上方に突出していること。

(ハ)  基盤の正面中央部に止めビス孔が設けられていること。

(ニ)  基盤の背面に四本のプラグを突出させ、背面中央部に止めビス孔が設けられていること。

左記各点は相違している。

(ホ)  基盤の正面輪郭が、においては正方形であるに対し、においては前項記載のような長方形であること

(ヘ)  プラグ差込孔の配置が、においては上下二段に三組づつ設けられているに対し、においては左右二列に三組づつ設けられていること。

(ト)  前記突出部の形状が、においては段がないのに、においてはその外周基部に前項記載のような段部があること。

しかし、右相違点(ヘ)については、を九〇度回転させて観察すると、プラグ差込孔の配置はと同様な上下二段に三組づつの配置となり、反対にを九〇度回転させて観察すると、プラグ差込孔の配置はと同様な左右二列に三組づつの配置となるから、右(ヘ)の点は、実質的にみると、相違点ではなく、同一点というべく、しかも本件登録意匠においては、以上に述べた各同一点が意匠構成の要部であり、他方前記相違点(ホ)および(ト)はまことに僅かな差異であるうえ、右要部に関しないものであるから、この程度の相違は看者に対し電線接続器全体について強い美感上の区別を与えるものではない。

したがって、本件被告製品の意匠は本件登録意匠と類似するというべきである。

六  よって、原告は被告に対し、本件意匠権に基き、右意匠権侵害の停止または予防として、請求の趣旨第一項に掲げる被告の行為の差止および右侵害行為(但し製造)の組成物件である本件「型」の廃棄を求める。

第三被告の答弁

一  請求原因第一項および第二項は認める、同第三項ないし第六項は全部争う。

二  本件登録意匠の構成

原告の本件登録意匠は、コンセントタップの形状および模様の結合によって描出されたコンセントタップ外観的形態として表現されたものであって、その構成は次のとおりである。

(一)  かなり厚味のある正方形輪郭の基盤の正面において、縦に長い長方形の小さい差込板を、三個横並びに上下二段に並列して設けたこと。

(二)  その各差込板の面に、隅丸梯形輪郭の凹窪部を、頭合わせ状に二個配置したこと。

(三)  右凹窪部の凹入態様は、隅丸梯形の四辺から片寄せて設けた差込孔の各辺に至るまでを傾斜状とし、また、その凹入した部分の角隅は、差込孔の長方形の角隅から上に至るに従って、やや丸味を帯びた態様に表わしたものであること。

(四)  なお、基盤の正面中央には背面まで通じた鋲孔を表わし、また右背面中央の上下には扁平形の支持片を二個並べて取付けたこと。

三  被告意匠の構成

本件被告製品の意匠は、コンセントタップの形状および模様の結合によって描出されたコンセントタップ外観的形態として表現されたものであって、その構成は次のとおりである。

(一)' かなり厚味のある長方形輪郭の基盤の正面において、縦長で側周に段を形成した長方形の大きな差込板二個を右と左に対向状に設けたこと。

(二)' この各差込板の面に、隅丸長方形の輪郭の凹窪部を、上中下の三段に横並びに二個づつ計六個を並列して設けたこと。

(三)' 右凹窪部の凹入の態様は、隅丸長方形の四辺から中央に設けた長方形の差込孔の各辺に至るまでを傾斜状としまた、その凹入した部分の角隅は、差込孔の長方形の角隅から上に至るに従って、やや丸味を帯びた態様に表わしたものであること。

(四)' なお、基盤の正面中央には背面まで通じた鋲孔を表わし、また右背面中央の上下には扁平形の支持片を二個並べて取付けたこと。

四  本件登録意匠と被告意匠の類否

本件登録意匠と被告意匠とを対比すると、両者間には、次のような顕著なる差異がある(以下、両意匠の略称は前記符号による)。

(一)  第一印象による比較

両者は基盤の面に設けた差込板の数と配置の仕方において顕著な差異があり、また差込板の面に設けた凹窪部の形状と配置の仕方においてもその態様を全く異にするもので、これらを綜合して全体として観察すると、両意匠は全然別異の美的印象を与えるものである。

(二)  各部の比較と全体の比較

(1) 各部の比較

(イ) 基盤の形状の点において、は正方形であるのには長方形で、差異がある。

(ロ)基盤の面に設けた差込板の点において、は小さい差込板六個を三個横並びにして上下二段に設けたのに対し、は大きい差込板二個を対向状に設け、その各側周に段を形成したもので、両者は意匠の基本的構成を全く異にする。

(ハ) 差込板の面に設けた凹窪部の点において、は六個の差込板の面に、それぞれ二個の隅丸梯形状の凹窪部を上下頭合わせ状に設けたのに対し、は二個の差込板の面に、それぞれ六個の隅丸長方形の凹窪部を上中下の三段に横並びに二個づつ設けたもので、この点でも、両者はその態様を著しく異にする。

(ニ) 右凹窪部の凹入態様の点において、両者は前記第二項(三)記載のような態様()と前項(三)'記載のような態様()との差が異ある。

(2) 全体の比較

以上各部の比較を綜合し意匠全体について観察すると、両者は意匠上の構成要因である変化、統一および連続の態様を異にすると共に、各部の対比と照応の関係においてその趣旨を異にし、美的印象において格段の差異がある。

したがって、本件被告製品の意匠は本件登録意匠と類似しないというべきである。

(右主張に対する原告の反論)

仮に本件登録意匠と被告意匠との間に被告主張のような差異(部分的差異)があるとしても、およそ意匠の類否は意匠における支配的な要素を基準とし、全体的な観察によって綜合的に判断すべきものであるところ、本件登録意匠の支配的な要素は差込孔の基盤に対する配置の形態、すなわち二個の臼歯状の窪みを以て一組とする各組の差込孔が基盤に対して整った等配置に設けられたことによって、その基盤上に占める空間的な釣合いが相称美(いわゆるシンメトリー的な美)を感じさせること、および六組の差込孔の配設がくりかえされていることによって装飾的な美が醸し出されていること、の二点にあるが、以上の形態ないし美感は、被告意匠においても、前記部分的差異の存在にかかわらず、なお同様に存在し且つ感得されるものであるから、被告意匠は、やはり本件登録意匠と類似するというべきである。

第四証拠≪省略≫

理由

一  請求原因第一項および第二項の事実は当事者間に争いがない。

二  本件登録意匠の構成

≪証拠省略≫を綜合すると次の事実を認めることができる。

「原告の本件登録意匠は、コンセントタップ(電線接続器)の各部の形状および模様の結合によって表現されるコンセントタップ全体の外観的形態にかかるものであって、その構成は次のとおりである。

(一)  かなり厚味のある正方形輪郭の基盤の正面において、縦が横の約一、五倍ある長方形の小さな且つ同面積のプラグ差込板を、それぞれ基盤より若干前方に突き出して、三個等間隔の横並びにしたのを上下二段に且つ上下対照的位置に、計六個設けたこと。

(二)  右各差込板の面に、一組のプラグ差込孔として、それぞれ隅丸梯形輪郭の同面積の凹窪部(原告のいう臼歯状の窪み)を二個上下頭合わせ状に設けたこと。

(三)  右凹窪部の形状は

(1)どの一組の差込孔においても、上部の凹窪部がその中央やや下寄りに横に長い長方形の差込孔を、下部の凹窪部がその中央やや上寄りに同様の(しかし、前者よりもやや横幅の短い)差込孔を、それぞれ有し

(2)その凹入の態様は、いずれも、凹窪部の四辺から右差込孔の各辺に至るまでを傾斜状とし、また、その凹入した部分の角隅は右差込孔の長方形の角隅から上に至るに従ってやや丸味を帯びた態様に表わしたものであること。

(四)  基盤の正面中央部に背面まで通じた止めビス孔一個を設け、また基盤の背面中央部には、上下二段に且つ対照的位置に各一組(二本)のプラグを突出させたこと。」他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三  被告意匠の構成

≪証拠省略≫を綜合すると、次の事実を認めることができる。

「本件被告製品の意匠は、コンセントタップ(電線接続器)の各部の形状および模様の結合によって表現されるコンセントタップ全体の外観的形態にかかるものであって、その構成は次のとおりである。

(一)' かなり厚味のある、やや縦に長い長方形輪郭の基盤の正面において、縦が横の約三倍ある長方形の大きな且つ同面積のプラグ差込板を、それぞれ基盤より若干前方に突き出し、且つその側周基部に形の小さな段部を形成して、左右に且つ対照的位置に各一個、計二個設けたこと。

(二)' 右各差込板の面に、隅丸長方形の輪郭の同面積の凹窪部(原告のいう臼歯状の窪み)二個を横に並べて一組とするプラグ差込孔三組を、上中下の三段に等間隔に、しかも差込板相互間で左右対照的位置に設けたこと。

(三)' 右凹窪部の形状は

(1)'どの一組の差込孔においても、向って右側の凹窪部がその中央に縦に長い長方形の差込孔を、向って左側の凹窪部がその中央に同様の(しかし、前者よりもやや縦幅の短い)差込孔を、それぞれ有し

(2)'その凹入の態様は、いずれも、凹窪部の四辺から右差込孔の各辺に至るまでを傾斜状とし、また、その凹入した部分の角隅は右差込孔の長方形の角隅から上に至るに従ってやや丸味を帯びた態様に表わしたものであること。

(四)' 基盤の正面中央部に背面まで通じた止めビス孔一個を設け、また基盤の背面中央部には、上下二段に且つ対照的位置に各一組(二本)のプラグを突出させたこと。」他に右認定を左右するに足る証拠はない。

四  本件登録意匠と被告意匠の要部

右各認定のような両意匠の構成に、コンセントタップが電線接続器としてもつ通常看者の想起する形態およびその使用態様等を併せ考えると「本件登録意匠と被告意匠の要部(意匠の構成要素中、看者の注意を最も強くひく部分)は、いずれも、(イ)基盤の輪郭、(ロ)基盤の面に設けたプラグ差込板の数と形状および配置の仕方、(ハ)右各差込板の面に設けた一組のプラグ差込孔の数と形状および配置の仕方、特に後二者であること」を認めことができる。他に右認定を左右するに足る証拠はない。

五  本件登録意匠と被告意匠の類否

以上認定の各事実に基いて、本件登録意匠と被告意匠とを対比すると、両者は共に「コンセントタップ(電線接続器)の各部の形状および模様の結合によって表現されるコンセントタップ全体の外観的形態にかかるものであること」は同様であるが、その構成においては、(イ)基盤の厚さ、(ロ)基盤の正面にそれぞれプラグ差込板を設けたこと、(ハ)右差込板の面にそれぞれ二個の凹窪部を以って一組とするプラグ差込孔を設けたこと、(ニ)右凹窪部の凹入の態様、(ホ)前記止めビス孔および基盤の背面に突出させた前記プラグの点が一致するだけで、その他の構成、すなわち(イ)基盤の輪郭、(ロ)基盤の面に設けたプラグ差込板の数と形状および配置の仕方、(ハ)右各差込板の面に設けた一組のプラグ差込孔の数と形状および配置の仕方、(ニ)一組のプラグ差込孔において各凹窪部の有する差込孔の位置と大きさの各点が相違すること、および右相違点(イ)ないし(ハ)は、いずれも、本件登録意匠と被告意匠の各要部に関するものであること、明らかである。そして、前記認定のような本件登録意匠と被告意匠の各具体的要部の形態から考えてみると、前者からは、主として、小さな差込板(したがって、これと一体をなす一組の差込孔)が数多く、横に、しかも各個独立的に配設され、これがそれぞれ基盤より浮き上って見える感じを受けるに対し、後者からは、主として、大きな差込板が左右に二個対向して並び、これがそれぞれ基盤より浮き上って見え、且つ右各差込板上に多数の各一組づつの差込孔が縦に、しかも各個非独立的に配設された感じを受けるので、本件登録意匠と被告意匠の前記要部に関する差異(特に(ロ)および(ハ)の点)は顕著なものであるというべきである。一方、前記一致点(イ)ないし(ホ)は、いずれも本件両意匠の要部ではない。

そうとすれば、本件登録意匠と被告意匠とは、右のような共通点があっても、全体として観察すると、意匠構成の基本的要素を異にし、結局類似しないというべきである。

もっとも、本件コンセントタップにおいては、本件登録意匠であっても、被告意匠であっても、共に基盤の背面のプラグを、壁面に設けられた縦方向または横方向いずれのコンセントにも差込み、これを自由に使用し得るので、両者は常に別紙第一図面(本件登録意匠)および同第二図面(被告意匠)の各正面図記載のとおりの形状で使用されるとは限らず、右各正面図をそれぞれ左右に九〇度回転させた形状で使用される場合もあること、前記認定の本件両意匠の各構成に照らし明らかであるから、このような機能をもったコンセントタップの意匠の類否を判断するに当っては、単に前記正面図記載のような各形態を対比するにとどまらず、本件両意匠のいずれかを前記のように左右に九〇度回転させた形態と他の一方の正面図記載の形態とを対比する必要もあることが考えられ、この見地に立って検討すると、前記本件両意匠の各構成からすれば、被告意匠(正面図)を左右に九〇度回転させて観察した場合、プラグ差込孔の配置は本件登録意匠と同様な上下二段に三組づつの配置となり、反対に本件登録意匠(正面図)を左右に九〇度回転させて観察した場合、前記差込孔の配置は被告意匠と同様な左右二列に三組づつの配置となること明らかであるから、プラグ差込孔の配置の点も、本件両意匠は実質上同一であると考えられない訳でもない。しかし、本件両意匠の要部は、右のように九〇度回転させた場合も、プラグ差込孔の配置の外に尚プラグ差込板の数と形状および配置の仕方等が特に顕著であり、その結果、基本的には、前記のような本件両意匠からの各印象を避けられないものと認めることができるから、前記九〇度回転させた形態を本件意匠の類否判断の資料に入れても、結局、前記認定を覆えすことはできないものというべきである。

また、原告は本件登録意匠の支配的な要素は六組の差込孔の基盤に対する配置の形態にあることを前提として、種々美感上の主張をするが、本件登録意匠と被告意匠の各要部は単に差込孔の配置の点にとどまらず、差込板の数と形状および配置の仕方も含んでおり、その結果、両意匠は異なった印象を与えること、前認定のとおりであるから、原告の主張はにわかに採用することができない。

六  結論

よって、本件被告製品の意匠が本件登録意匠と類似することを前提とする原告の本訴請求は、爾余の点につき判断するまでもなく、全部これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒木秀一 裁判官 古川純一 牧野利秋)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例